『Fate/Zero』

中二病のまま図体がでかくなった衛宮切嗣とセイバーは同類相食み、人間関係ねじれにねじれ、衛宮切嗣中二病のすえに多くを失い、心は燃え尽きた。セイバーは衛宮切嗣とのかかわりのなか、中二病をさらにこじらせて絶望のふちにたたきこまれる。
本作の登場人物の多くは、そばにいて欲しくない人たちばっかりなんだけど、自分にとって一番共感しにくいというか、共感したくないというか、一番困ったやつらだと考えるのが、衛宮切嗣とセイバーだ。雨生龍之介やキャスターですら、快楽原則で動いている分、理解しやすい。想像力豊かで頭の良い人間が、許されない方向の欲を持ち、その欲に素直に精通していったらああなりそうと思える人たちで、あのふたりってキチガイキチガイなんだけど、かなり素直なキチガイだと思う。本当のキチガイというかねじれにねじれているのは衛宮切嗣とセイバーの方だ。振る舞いが理性的でも、精神がまともとは限らないからな*1。そのふたりが主人公のため、ページをめくる手がとまらないぐらいお話は面白いんだけど、こいつらが最終的に勝つのはやだなあ……とも思ってしまった。
Fate/stay night』に続く物語だから、最後に衛宮切嗣とセイバーが絶望の淵にたたき込まれるのがわかっていたわけだが、だからこそ、安心して読めたというか……。衛宮切嗣やセイバーみたいに、やたらとピュアでナイーブで、「地獄への道は善意で舗装されている」をもののみごとに体現している連中が勝利したら、世の中えらいことになる。まあ、作中でそういうやたらとピュアでナイーブなふたりは、他の登場人物やら、さまざまな舞台装置やらから、おまえらみたいなんじゃダメよと、しめられまくってたが。ああいうのが素直に肯定される物語はつらすぎるから、そういう意味でも助かったな。
ウェイバーとイスカンダルは、いろいろきっつい物語における一服の清涼剤だった。あとギルガメッシュも。

*1:Fate/stay night』ではセイバー、それほどやばい人に見えないけど、『Zero』はより黒い作家さんが書いたからかな?